2007年11月30日

最2小判昭和54年3月30日民集33巻2号303頁について

配偶者の一方と肉体関係を持った第三者の他方配偶者に対する不法行為責任の成立に関する判例について触れます。この場合に不法行為責任が成立するか否かという問題は、「各人の価値観のリトマス試験紙」になると言っている学者もいる問題です。本判例はこれを肯定していますが、学説からの批判もあり、その後最高裁も平成に入ってから射程を制限する判例を出しています。

〔事案の概要〕A(夫)とX1(妻)は昭和23年に婚姻し、両名の間には三人の娘X2〜X4がいた。Aは昭和32年頃に銀座のホステスYと知りあい、YはAに妻子がいることを知りながら肉体関係を結ぶようになり、YA間に一児が生まれることとなった。その後Y・A間の関係はX1の知るところとなったので、A・X1間に不和が生じ、AはYと同棲するようになる。X1はYに対し、@妻が夫に貞操を求める権利を侵害されたとして500万円の慰謝料を、AX2〜X4が父Aと共同生活により享受することができた監護・教育・愛情的利益が侵害されたとして計400万円の慰謝料の支払いを訴求して提訴した。
〈一審〉@について認容、AについてもYの行為により親子共同生活が破壊され、X2らが父Aに対し身上監護を要求する権利の一部たる愛情的利益が侵害されたとして請求の一部を認容した。
〈控訴審〉@についてA・Yの関係はAのさそいかけから自然の愛情によって生じたものであり、YがAに同棲を求めたものではなく、婚姻破綻後にAからYに赴いたものであるのでYに違法があるとはいえないとし、Aについても「AがYと同棲して以来子供であるX2らはAの愛撫、養育を受けられなくなつたわけであるが、これは一にAの不徳に帰することであつて、Yに直接責任があるとすることはできない」としてXらの請求を全て棄却したのでXらが上告した。
〈争点〉@配偶者の一方と肉体関係を持った第三者は、他方配偶者に対し不法行為責任を負うか
    A不貞行為の相手方たる第三者に対し、子は親との共同生活による利益を侵害されたとして慰謝料を請求できるか。
〈判旨〉@部分につき破棄差戻し、A部分について上告棄却
@部分について「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。……原審が、AとYの関係は自然の愛情に基づいて生じたものであるから、Yの行為は違法性がなく、X1に対して不法行為責任を負わないとしたのは、法律の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかである。」
A部分について「妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持つた女性が妻子のもとを去つた右男性と同棲するに至つた結果、その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、その女性が害意をもつて父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右女性の行為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。けだし、父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができるのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと右女性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからである。……(控訴審の事実認定によれば)YはAとの同棲を積極的に求めたものではなく、AがX1らのもとに戻るのをあえて反対しなかつたし、AもX1らに対して生活費を送つていたことがあつたというのである。……(このような)事実関係の下で、特段の事情も窺えない本件においては、被上告人の行為は上告人春子らに対し、不法行為を構成するものとはいい難い。」
なお、本判決には大塚裁判官の補足意見、本林裁判官の反対意見「(Aについて、)その女性が同棲を拒まない限り、その同棲行為と子が被る右不利益との間には、相当因果関係がある……右不利益は、不法行為法によって保護されるべき法益となり得る……」が付されている。

〈不貞行為による不法行為責任の性質〉(二宮周平「家族法(第2版)」60頁による)
・ 不貞行為は、配偶者の一方と相手方との共同不法行為である。→しかし現実には、配偶者の責任は問わず、相手方の責任だけを追及することも少なくない。
・ 共同不法行為による損害賠償は、不真正連帯債務であるが、連帯債務に関する民法437条(免除の絶対効)は適用されない。ゆえに配偶者に対しては損害賠償債務を免除し、相手方の責任だけを追及することも可能である。
〈関連判例〉(1)本判決以前:大審院時代より、他方配偶者の第三者に対する慰謝料請求を認めることは確立した判例である。「凡ソ夫ハ妻ニ対シ貞操ヲ守ラシムル権アルモノナレハ本件上告人カ被上告人ノ妻ト姦シタルハ即チ本夫タル被上告人ノ夫権ヲ侵害シタルモノト云ハサルヲ得ス故ニ原院カ夫権ノ損害ニ対スル賠償ヲ許容シタルハ不法ニアラス」(明治三六年一〇月一日大審院刑事一部判決刑録9輯1425頁)大判明治41年3月30日刑録14輯331頁も同様。いずれも妻の姦通罪での附帯私訴判決である。もっとも、大刑一決大正一五年七月二〇日刑集5巻318頁は、「婦ハ夫ニ対シ貞操ヲ守ル義務アルハ勿論夫モ亦婦ニ対シ其ノ義務ヲ有セサルヘカラス」として夫にも貞操義務を認める(妻側が慰謝料を要求したことが恐喝罪に問われた原審を破毀した事実審理開始決定)。同事件では恐喝罪の成立が否定された(大判昭和2年5月17日法律新聞2692号6頁)。
(2)本判決に対しては、学説より批判が強く、その後最3小判平成8年3月26日民集50巻4号993頁は、配偶者の一方と第三者が肉体関係を持った当時にすでに婚姻関係が破綻していた事案において、「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(昭和54年判例)のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。」と判示している。
(3)不貞行為による慰謝料請求権の消滅時効(民法724条)について、最1小判平成6年1月20日家庭裁判月報47巻1号122頁「夫婦の一方の配偶者が他方の配偶者と第三者との同せいにより第三者に対して取得する慰謝料請求権については、一方の配偶者が右の同せい関係を知った時から、それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。けだし、右の場合に一方の配偶者が被る精神的苦痛は、同せい関係が解消されるまでの間、これを不可分一体のものとして把握しなければならないものではなく、一方の配偶者は、同せい関係を知った時点で、第三者に慰謝料の支払を求めることを妨げられるものではないからである。」とする。←昭和54年判決の適用ルールを限定する
〈学説〉不貞行為の相手方たる第三者が、どのような場合に他方配偶者に対して不法行為責任を負うかという点につき、以下の見解が存在する(水野紀子教授の分類 ジュリ平成8年重判解77頁による)。
@ 夫婦が事実上の離婚をしている場合には、不法行為は成立しない
A 事実上の離婚とはいえなくても、婚姻関係が破綻している場合には成立しない
B 第三者が他方配偶者を積極的に害しようとした場合に限り成立を認める
C 暴力や強迫など違法手段によって不貞行為を実行させた場合に限って成立を認める
D 一切不法行為責任の成立をみとめない見解(水野紀子教授)
D説の論拠:夫と第三者との間に子がいる場合、養育費や認知の請求に対する抑圧になる。又、夫のいる女性が意図的に別の男性と関係を持った場合には美人局(つつもたせ)が合法的に可能になる(内田貴「民法U(第2版)」347頁)。なお、大村教授は、(単に性関係を持っただけでは足りず、)夫婦の共同生活を脅かされた場合に損害の発生を認めて、不法行為の成立を肯定されるが、夫婦間では不貞を許したのに、第三者のみに対して行われる請求を権利濫用として遮断するべきとする(大村敦志「家族法(第2版補訂版)」55頁)。
posted by 一法律学徒 at 19:56| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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