2007年10月19日

光母子殺害事件の弁護団懲戒問題を巡って

 山口県光市のいわゆる母子殺害事件の差戻し控訴審の弁護活動を巡って、大阪弁護士会の橋下弁護士(マスコミや自身のブログ等で顕名で発言していることなどに鑑み、実名で表記します)がテレビ番組で「懲戒請求を弁護士会に送りつけて下さい」などと発言し、数千件の懲戒請求が光市弁護団の所属する各弁護士会に寄せられていることは既に先日のブログでコメントしました。
 この橋下弁護士を被告として弁護団の4人が損害賠償請求をしているようですが、この損害賠償請求訴訟の当事者双方の主張が先月28日付けの朝日新聞に掲載されていました。
 以下それの一部を引用します。
 橋下弁護士「懲戒請求においては、その事実が弁護士会の信用を害し、品位を失うべき非行にあたるかどうかの評価の問題である。その評価は世間一般の常識的な感覚で判断するほかなく、世間の声は重要な判断要素になる。……弁護活動に不当な重圧を受けたと主張するが、社会にきちんと説明しないのだから当たり前だ。被告人の利益を最大限に図りつつ、社会から信用されるよう真摯に国民を説得するよう務めなければならない。」

光母子事件弁護団の弁護士ら「……橋下弁護士は、弁護人が真に被告人の供述を代弁し、展開していないと決めつけた。しかし、刑事弁護人の職責は、被告人に代わりその利益を最大限主張することであり、それゆえ弁護人までが被害者・遺族の恨みの対象となり、世論の激しい非難にさらされる場合もあることを理解しているはずだ。その行為は極めて悪質で責任は重大だ。」
 
 橋下弁護士は「世間の声」が重要、弁護活動は社会に対する説明責任を伴うもので、それを果たさなければ弁護活動に圧力がかかっても仕方がないと主張しているようです。
 彼が言う「世間の声」とは一体なんなのでしょうか。自分自身がマスコミに登場して「世論」を形成している立場にあることを自覚しているのでしょうか。もちろん、弁護活動に対する批判を行うこと自体は自由ですが、現在進行中の裁判や弁護活動に対して圧力を加えるような事を行うことは法律家として厳に慎むべき事であると考えます。
 日本の戦時中の治安維持法体制下における弾圧やナチス・ドイツを例に出すまでもなく、独裁や権力による暴力は常に多数派と称する「正義」の名の下に行われてきたことは、歴史の教えるところです。
 法律家としては、もし問題がある弁護活動があるというのであれば、まず弁護士会内部の刑事弁護委員会などで問題提起をするなどといった方針をとるべきではないでしょうか。
 「世論の声」を気にしながら、「社会」に対する説明義務を果たさなければ弁護活動が抑圧されても構わないなどというのは人権(数の論理では侵されてはならないものです)擁護を使命とする弁護士の活動自体を否定するものではないでしょうか。
 また、橋下弁護士自身は批判の対象としている弁護活動について、独自にどのような調査を行い、どのような事実を把握しているというのでしょうか。この点については懲戒請求を呼びかけた以上、彼自身に「説明義務」があると考えます。
 また、橋下弁護士のブログには、富山の冤罪事件(氷見事件)についての短いコメントがあり「一審担当弁護人は,あれだけ杜撰な弁護活動をしていた」「一般市民が懲戒請求をかけても、3年の除斥期間で不問になる可能性が高い」などという見解を表明していました。この氷見事件についても、彼はいかなる調査に基づいて、いかなる根拠で「国選弁護人が杜撰な弁護活動をしていた」といえるのか、はっきりとした根拠があるのか疑問に感じました。法律家である以上、具体的な事件についてコメントするのであれば、どのような根拠によって自分はそのような見解を持つに至ったのか、明らかにするべきではないでしょうか。

(なお、この件については多様な見解がありうると考えますが、コメント欄への書き込みについて、他人に対する誹謗・中傷となるものやその他管理人が不適当と認めるものは公開しないことを付言させて戴きます。もちろん、見解が管理人と異なるものであっても礼節を持って意見を述べるものについては公開するつもりです。「対話」とは、見解が異なる他者が存在することを当然として、他者を尊重しつつその異なる見解を咀嚼して自らの見解を述べることであり、インターネットの匿名性を良いことに無責任な表現を行ってストレスを発散することではありません。そのような方にはこのブログを閲覧することをご遠慮いただきます【名誉毀損・脅迫に該当するような悪質な書き込みについてはIPアドレスを保存したうえで、関係機関に通報することもあります】。)
posted by 一法律学徒 at 22:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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