2007年12月07日

土地区画整理事業決定の処分性に関する判例変更か?

土地区画整理事業の事業計画決定について、行政訴訟で争う対象としての要件である「処分性」を否定した最高裁判例が変更される可能性が出てきました。
以下は
http://www.asahi.com/national/update/1205/TKY200712050218.html?ref=gooによります。

計画段階の区画整理事業 訴訟制限判例変更か 最高裁
2007年12月05日16時15分

 最高裁第三小法廷(近藤崇晴裁判長)は5日、土地区画整理事業の違法性について、事業の計画段階から行政訴訟で争うことができるかどうかが焦点となっている訴訟の審理を大法廷に回付することを決めた。大法廷で審理されることにより、「計画段階では、まだ行政処分とはいえず争えない」としてきた従来の判例が変更される可能性が出てきた。
 従来の判例に基づけば、区画整理を進めるための「仮換地」などの行政処分があった段階まで行政訴訟を起こすことが制限されるため、学界や弁護士の間には「救済が遅れる」などと批判があった。区画整理をめぐる争いは各地で生じており、判例が見直された場合は、これらに大きな影響を及ぼすことになる。
 土地区画整理法では、市町村が都道府県の認可を受けて事業計画を決定し公告すると、土地の形質の変更や建物の新築などに許可が必要になるため、住民ら権利者は一定の不利益を受ける。
 しかし、最高裁は66年、事業計画の決定の性格について「特定の個人に向けられた具体的な処分とは著しく異なり、いわば事業の『青写真』に過ぎない」と判断。行政事件訴訟法上の取り消し訴訟の対象にならないと結論づけた。
 回付の対象となるのは、浜松市の遠州鉄道上島駅周辺の区画整理事業をめぐり、03年11月の市の事業計画決定の取り消しなどを求めて地権者らが起こした訴訟。一審・静岡地裁、二審・東京高裁ともに、判例に従って訴えを却下した。


なお、この件のリーディング・ケースである昭和41年の最高裁大法廷判決を以下に引用します。
区画整理事業設計等無効確認請求事件
昭和三七年(オ)第一二二号
同四一年二月二三日最高裁大法廷判決
【上告人】 控訴人 原告 坂本泰輔 外三〇名 代理人 徳田敬二郎 外一名
【被上告人】 被控訴人 被告 東京都知事 代理人 石葉光信 外二名


       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。


       理   由

 上告代理人徳田敬二郎、同中野富次男の上告理由(第一ないし第三)および同補充上告理由について。
 論旨は、要するに、土地区画整理事業計画の公告がなされた段階においては、上告人らは未だ直接具体的な権利変動を受けていないから本件事業計画の無効確認を求めることは許されないとした原審の判断は、法令違背、理由齟齬の違法をおかしたものであるというにある。
 しかしながら、この点に関する原審の判断は、当審においても、これを正当として是認すべきものと認める。(なお、上告人中村五市および同岩波功の両名は、すでに仮換地の指定を受けており、従つて、これに対し、所定の手続を経て不服の訴えを提起することはできるが、事業計画そのものを対象として無効確認を求める法律上の利益は有しないとした原審の判断は正当であつて、所論理由齟齬の違法はない。)その理由は、次のとおりである。
一、土地区画整理事業計画(その変更計画をも含む。以下同じ。)は、もともと、土地区画整理事業に関する一連の手続の一環をなすものであつて、事業計画そのものとしては、単に、その施行地区(又は施行工区)を特定し、それに含まれる宅地の地積、保留地の予定地積、公共施設等の設置場所、事業施行前後における宅地合計面積の比率等、当該土地区画整理事業の基礎的事項(土地区画整理法六条、六八条、同法施行規則五条、六条参照)について、土地区画整理法および同法施行規則の定めるところに基づき、長期的見通しのもとに、健全な市街地の造成を目的とする高度の行政的・技術的裁量によつて、一般的・抽象的に決定するものである。従つて、事業計画は、その計画書に添付される設計図面に各宅地の地番、形状等が表示されることになつているとはいえ、特定個人に向けられた具体的な処分とは著しく趣きを異にし、事業計画自体ではその遂行によつて利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが、必ずしも具体的に確定されているわけではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たる性質を有するにすぎないと解すべきである。土地区画整理法が、本件のような都道府県知事によつて行なわれる土地区画整理事業について、事業計画を定めるには、事業計画を二週間公衆の縦覧に供することを要するものとし、利害関係者から意見書の提出があつた場合には、都道府県知事は、都市計画審議会に付議したうえで、事業計画に必要な修正を加えるべきものとしている(法六九条参照)のも、利害関係者の意見を反映させて事業計画そのものをより適切妥当なものとしようとする配慮に出たものにほかならない。
 事業計画が右に説示したような性質のものであることは、それが公告された後においても、何ら変るところはない。もつとも、当該事業計画が法律の定めるところにより公告されると、爾後、施行地区内において宅地、建物等を所有する者は、土地の形質の変更、建物等の新築、改築、増築等につき一定の制限を受け(法七六条一項参照)、また、施行地区内の宅地の所有権以外の権利で登記のないものを有し、又は有することになつた者も、所定の権利申告をしなければ不利益な取扱いを受ける(法八五条参照)ことになつている。
しかし、これは、当該事業計画の円滑な遂行に対する障害を除去するための必要に基づき、法律が特に付与した公告に伴う附随的な効果にとどまるものであつて、事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生する権利制限とはいえない。それ故、事業計画は、それが公告された段階においても、直接、特定個人に向けられた具体的な処分ではなく、また、宅地・建物の所有者又は賃借人等の有する権利に対し、具体的な変動を与える行政処分ではない、といわなければならない。
二、もつとも、事業計画は、一連の土地区画整理事業手続の根幹をなすものであり、その後の手続の進展に伴つて、仮換地の指定処分、建物の移転・除却命令等の具体的処分が行なわれ、これらの処分によつて具体的な権利侵害を生ずることはありうる。しかし、事業計画そのものとしては、さきに説示したように、特定個人に向けられた具体的な処分ではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たるにすぎない一般的・抽象的な単なる計画にとどまるものであつて、土地区画整理事業の進展に伴い、やがては利害関係者の権利に直接変動を与える具体的な処分が行なわれることがあるとか、また、計画の決定ないし公告がなされたままで、相当の期間放置されることがあるとしても、右事業計画の決定ないし公告の段階で、その取消又は無効確認を求める訴えの提起を許さなければ、利害関係者の権利保護に欠けるところがあるとはいい難く、そのような訴えは、抗告訴訟を中心とするわが国の行政訴訟制度のもとにおいては、争訟の成熟性ないし具体的事件性を欠くものといわなければならない。
 更に、この点を詳説すれば、そもそも、土地区画整理事業のように、一連の手続を経て行なわれる行政作用について、どの段階で、これに対する訴えの提起を認めるべきかは、立法政策の問題ともいいうるのであつて、一連の手続のあらゆる段階で訴えの提起を認めなければ、裁判を受ける権利を奪うことになるものとはいえない。右に説示したように、事業計画の決定ないし公告の段階で訴えの提起が許されないからといつて、土地区画整理事業によつて生じた権利侵害に対する救済手段が一切閉ざされてしまうわけではない。すなわち、土地区画整理事業の施行に対する障害を排除するため、当該行政庁が、当該土地の所有者等に対し、原状回復を命じ、又は当該建築物等の移転若しくは除却を命じた場合において、それらの違法を主張する者は、その取消(又は無効確認)を訴求することができ、また、当該行政庁が換地計画の実施の一環として、仮換地の指定又は換地処分を行なつた場合において、その違法を主張する者は、これらの具体的処分の取消(又は無効確認)を訴求することができる。これらの救済手段によつて、具体的な権利侵害に対する救済の目的は、十分に達成することができるのである。土地区画整理法の趣旨とするところも、このような具体的な処分の行なわれた段階で、前叙のような救済手段を認めるだけで足り、直接それに基づく具体的な権利変動の生じない事業計画の決定ないし公告の段階では、理論上からいつても、訴訟事件としてとりあげるに足るだけの事件の成熟性を欠くのみならず、実際上からいつても、その段階で、訴えの提起を認めることは妥当でなく、また、その必要もないとしたものと解するのが相当である。
 されば、土地区画整理事業計画の決定は、それが公告された後においても、無効確認訴訟の対象とはなし得ないものであつて、これと同趣旨に出た原審の所論判断は、相当であり、論旨は、排斥を免れない。
 よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官入江俊郎、同奥野健一、同草鹿浅之介、同石田和外、同柏原語六の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一の反対意見は次のとおりである。
 土地区画整理法(昭和三七年法律第一六一号による改正前のもの。以下同じ。)の規定によれば、事業計画(または変更計画)が確定して公告されると、施行地区内において宅地建物を所有する者が、土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築を行ないまたは政令に定める移動の容易でない物件の設置若しくはたい積を行うには、都道府県知事の許可を受けることを必要とし(七六条一項参照)、これに違反すれば刑罰の裏付けをもつて、土地の原状回復または建物その他工作物若しくは物件の移転若しくは除却を命ずることとし(同条四項、一四〇条参照)、また所有権以外の権利で登記のないものを有しまたは有するにいたつた者は、書面をもつてその権利の種類及び内容を施行者に申告しなければ、無権利者または権利変動がなかつたものとして、不利益な取扱いを受けることになつている(八五条一項、五項参照)。
 かくの如く土地区画整理事業計画によつて、施行地区内の土地所有者、賃借権者等が、その権利の行使を制限されることは明らかであるから、事業計画の決定は、少なくともそれが公告された段階においては、既に一の行政処分であつて、若し、その処分が違法であり、これにより権利の侵害を受けた者があるときは、その者は事業計画に対して行政訴訟を提起する法律上の利益を有するものと解すべきである。なお、このことは、土地区画整理法一二七条が同法に基づく処分に対し訴願の途を開いていることからみても、相当であるといえるであろう(昭和二四年一〇月一八日、当裁判所第三小法廷判決参照)。(尤も、右一二七条はその後改正され、行政上の不服を許さないことになつたけれども、だからといつて、行政訴訟が禁止されるものでないことは、行政事件訴訟法が訴願前置主義を撤廃していることに鑑みても、明らかである。)もつとも、前記形質変更等の制限は、地区内の関係者全員に対して一律に課せられる義務であつて、特定の個人に対するものではないが、いわゆる一般的処分であつても、それが個人の権利、利益を違法に侵害するものであれば、行政訴訟の対象となり得ることは、既に承認されているところである。また、右形質変更等の制限は、事業計画そのものによつて生ずるものではなく、法律により、特に与えられた事業計画に伴う附随的な効果であるとしても、苟もそれによつて違法に個人の権利が侵害される限り、事業計画そのものに対して、違法処分による権利の救済を目的とする行政訴訟が許されないとする理由はない。
 さらにまた、事業計画は、土地区画整理手続の一環をなすに過ぎないものではあるが、土地区画整理手続の根幹をなすものであつて、それが決定されると、法定の除外理由のない限り、そのまま実施され、爾後の手続は機械的に進められる公算が極めて大であるのであるから、かかる場合において、若し最初の段階における事業計画が、違法であるにもかかわらず、被害者をしてその後の仮換地の指定または換地処分のあるまで、拱手黙視せしめることは、不当に出訴権を制限するものであるばかりではなく、爾後の行為は無駄な手続を積み重ねる結果となり、手続の完成の段階における仮換地指定、換地処分に対する訴訟において、始めて事業計画が違法として、無効とされ、または取消されるとすれば、却つて混乱を増大する結果となる。これ恰も農地買収または土地収用の手続において、農地買収処分、収用委員会の裁決に対する出訴が許される外に、農地買収計画、土地収用の事業認定に対しても出訴が許されるものと解されるのと同様、土地区画整理事業において、仮換地の指定、換地処分に対して出訴が許される外に、事業計画自体について、その違法を理由とする出訴が許されて然るべきである。
 具体的権利の変動を及ぼす仮換地指定または換地処分等が行われた場合に、その違法を主張する者は、これらの具体的処分の取消(または無効確認)を訴求することができるから、これらの救済手段によつて、具体的な権利侵害に対する救済の目的は十分に達成することができる旨の多数意見の趣旨が、これらの最終の段階の処分に対する訴訟において、事業計画の無効を先決問題として主張し得るという趣旨であるとするならば、当然既に権利を違法に侵害された者に対し、それ以前においても事業計画の無効を主張せしめて然るべきであり、また、右多数意見の趣旨が当該具体的処分自体の違法を主張し得るに止まり、その基礎となつている事業計画の無効を先決問題として主張できないとする趣旨であるとすれば、違法な事業計画により権利を侵害された者の救済は遂に与えられないことになり、憲法三二条、裁判所法三条に違反することになる。
 しかして、原判決の確定した事実によれば、本件土地区画整理事業計画は、東京都戦災復興計画の一環として、被上告人知事が特別都市計画法に基づいて昭和二三年三月二〇日決定し、これを設計図等とともに公告縦覧に供し、昭和二五年六月二六日建設大臣より設計の認可を受け、その後昭和二九年五月と昭和三四年九月の二回にわたつて一部変更が加えられ、該第二次変更については、新らたに制定された土地区画整理法に基づき、建設大臣に対して設計変更の認可を申請し、昭和三五年三月三一日その認可を受け、同年四月九日付で変更決定の公告がなされた、また、上告人らは、右第二次変更計画においても残置された施行地区内において宅地、建物等を所有または賃借しているものであり、なかんずく、上告人中村五市は昭和三四年三月二六日、同岩波功は同年八月二四日それぞれ仮換地の指定およびこれに伴う建築物等の移転通知を受けたものである、というのである。従つて、上告人らの本件事業計画(第二次変更計画)の無効確認を求める本訴は適法であつて、論旨は理由があり、本訴を不適法とした原判決および第一審判決は、破棄または取消を免かれず、本件を第一審裁判所に差し戻すべきである。
 裁判官草鹿浅之介、同石田和外は、裁判官奥野健一の右反対意見に同調する。
 裁判官入江俊郎は、奥野健一裁判官の反対意見と趣旨において同意見であり、これに同調するけれども、なお補足したいところもあるので、若干重複する点もあるが、私の反対意見を次のとおり表示する。
 原判決は、土地区画整理法(昭和三七年法律第一六一号による改正前の、本件に適用された同法をいう。以下同じ。)事業計画は、それが公告されると、同法七六条一項、八五条等により地区内の関係者にある種の規制が加えられることとなるけれども、それは一般的、抽象的のものであり、これらの規定に違反した者に対して、同法七六条四項、五項の原状回復、移転、除却を命ずる処分がなされて始めて直接具体的な権利変動を来たすものであることを理由とし、上告人中村五市、同岩波功以外の上告人らは、その権利につき未だ直接具体的な変動を受けていないから、本訴により事業計画の無効確認を求める法律上の利益を有せず、右上告人中村、同岩波は同法七七条二項の仮換地指定に伴う移転通知はなされたが、右両名は仮換地指定等の処分に対し不服申立をなし得るに止まり、本件事業計画に対してはその無効確認を求める法律上の利益を有せず、その請求はいずれも不適法であり、これを却下すべきものとし、本件控訴を棄却した。しかし、私は、次の理由により、右原判決を是認することを得ず、従つて、原判決を是認して上告を棄却することとした多数意見には賛成することができない。
一、なるほど、土地区画整理事業計画(その変更計画を含む。以下同じ。)自体は、一般的、抽象的のものであつて、個人を直接の相手方とし、その権利、利益の規制を定めたものではない。また、その公告も右事業計画を一般に公示するものであつて、形式的に見れば特定個人を相手方としてなされるものではなく、一般的、抽象的の行政庁の行為のごとくである。しかし、都道府県知事が土地区画整理事業を施行するに当つては、先ずその計画を定め、その事業内容を個別的、具体的に表示するのであるが、これが土地区画整理法所定の手続を経て公告された場合には、同法七六条一項により、同事業計画の具体的な内容に応じて、その地区内においては建築物の新築等が制限され、この制限は同条四項を通じて結局同法一四〇条により刑罰をもつてその履行が強制されることとなつており、また同法八五条により権利の申告をしなければならないなど、地区内の関係者の権利、利益に対し規制が加えられることとなるのである。そして、土地区画整理は、土地区画整理法の規定によりその計画の樹立、公告およびその実施等が、段階を追うて行なわれる行政庁の一連の行為であるが、右事業計画の公告は、前記法条の規定のあることを前提として行政庁によりなされるものであるから、公告自体の形式のみに着眼すれば一般的、抽象的な行政庁の行為のごとく見えても、それは同時に、当然にその地区内における土地、家屋の所有者その他の個々の権利者は、同法七六条、八五条による規制を蒙むることとなり、これを放置することにより、後続または最終の処分によつて、その制約が具体的に確定してしまう危険が現実に存在することを否定し得ず、行政庁は、事業計画の内容にかかる法律効果の伴うことを意図し、これを前提として事業計画の公告をするのである。いいかえれば、本件公告は、形式的には一般的、抽象的処分のごとくであるが、それによつて、同時に、当該個人の権利、利益を規制する効果を生ずることとなり、結局、公告された事業計画は、個人に対する個別的な処分たる性質をも併せ有するに至るものであつて、その面に着眼すれば、行政事件訴訟特例法の適用については、公告を経た事業計画はこれを行政処分と見て、これに対して抗告訴訟を提起し得るものと解するのを相当とし(もちろん、この場合において不服の対象は、事業計画の内容およびその決定手続、公告手続等の違法問題に限らるべく、事業計画の具体的内容で行政庁の裁量に属するものに及び得ないことは当然である。)、多数意見のように、この段階では未だいわゆる訴訟の成熟性ないし具体的事件性を欠くものとは考えられず、従つて、本件事業計画の無効確認を求める訴の利益を否定すべきいわれはない。
二、もちろん、一連の手続を経て完成される行政作用については、中間段階の行政庁の行為につき、これに対する独立の出訴を認めず、単に異議、不服の申立等の行政上の手続をもつて争わせることとし、その後の段階においてはじめて訴訟をもつて争い得ることとしても、それによつてその個人の蒙むる権利、利益の侵害が、結局、後の段階における訴訟によつて完全に救済し得るならば、それは立法政策上許されないことではない(例えば、地方議会解散請求の受理や、立候補届出の受理のごときは、法律はそれ自体を直ちに独立の訴訟の客体とすることを認めず、一連の行為の最終段階の行為の取消または無効確認を求める訴訟で、右のような中間行為の違法を争わせることにしている。)。しかし、訴の利益を欠くか否かの問題は、人権保障の上からも、憲法三二条の精神からも極めて重大な事柄で、その判断は慎重を要すべきであり、訴の利益を欠くといい得るためには、当該法律にその旨の明文の規定があるか、または、立法の趣旨に照らし、そのように解し得るものであると同時に、それが憲法三二条の裁判請求権を不当に制約するものでない合理的根拠のある場合でなければならない。これを土地区画整理法についてみると,本件当時の同法一二七条は、この法律に基づいてなした処分に対し不服のある者は、建設大臣に訴願することができると規定しているだけであつて、救済方法をそれのみに限定したものとは認められず、中間段階の訴訟を認めない旨の規定はないばかりでなく、本件事業計画は、前記のとおり公告によつて、個人の権利、利益に対し個別的、具体的制約を及ぼすに至るものである点を考えれば、かかる制約をもつて、単に法律が特に付与した公告に伴う附随的効果に止まるものであるとして、これに対する権利、利益の救済を目的とする訴訟を否定する多数意見は、土地区画整理法の合理的な解釈と認めがたく、また憲法三二条の法意にも副わないものである。
 原判決は、「……これらの規定に違反した者に対し同法第七十六条第四項第五項の原状回復、移転、除却を命ずる処分がなされて始めて直接具体的な権利変動を来たすものというべきである。」として、その段階に至つてはじめて出訴を認め得る旨を判示しているが、そのような個々の処分がなされるまでは、権利制限を受けたと主張する者を、訴えるに由なき状態のまま放置することは、徒らに形式にとらわれた考え方であつて、人権保障の見地からみても賛同し得ないばかりでなく、原判決のいう段階において出訴を認めるというのであれば、公告のなされた段階において出訴を認めて、速やかに人権保障の途を開き、またそれだけ早く違法な行政上の処分を是正し、その後に生ずることあるべき行政秩序の無用な混乱を未然に防止すべきであると考える。事業計画が健全な市街地造成のための長期的見通しの下になされる計画であるとか、当該土地区画整理事業の青写真であるとか、事業計画を定めるにつき土地区画整理法六九条の規定があるとかいうことは、本件公告がなされた段階において事業計画につき行政訴訟を認めることの何らの支障となるものではない。また、個人は必ずしも本件のような訴訟によらず、所有権に基づく妨害の排除または予防の請求訴訟を提起し得る途がないわけではないとしても、法律により規制を受ける個人の権利、利益には所有権以外のものも存在するし、またたとえそのような方法が別途認められているからといつて、本件につき行政訴訟を否定する理由にならない。 
 本件類似の訴訟につき訴の利益を認めるか否かは、下級審において、積極、消極の裁判例の存するところではあるが、結局それは人権保障をその責務とする裁判所が、具体的各個の事案ごとに、その根拠法令の規定および憲法三二条の法意を、実体に即して勘案した上、ケース・バイ・ケースで判断すべきものである。そしてそのように考えると、この種の行政訴訟を認容する場合が将来次第に増加することになるかもしれないが、それが人権保障の上で必要なものであれば、裁判所としては徒らに消極的になる必要はない。
 なお、上述したところは、上告人中村五市、同岩波功についても同様である。なるほどこの両名は仮換地の指定等の処分を受けており、これに対し所定の手続により不服の訴ができるけれども、それだからといつて、右両名が公告のなされた本件事業計画により、その権利、利益を具体的に規制されるに至つたことは他の上告人らと同様であり、本件事業計画に対し、その無効確認を訴求し得ないとする理由はない。
三、附言すれば、このような行政訴訟は民衆訴訟として認められているわけではないから、権利、利益を侵害されたと主張する者が、侵害されたとする自己の権利、利益に関する限度において訴訟関係が成立するものであることは、憲法および裁判所法の下において、司法権の性質からみて当然のことである。それ故、本件においては、無効確認といつても、それは上告人らの当該権利、利益に関する限度において無効が確認されることとなるものであり、また、もしそれが取消訴訟として提起された場合には、その取消は、同様に上告人らの当該権利、利益に関する限度において取り消されるものであり、本件公告は、形式的には一般的な行為ではあつても、それはこれらの訴訟によつて、事業計画が全面的に無効とされまたは取り消されるものでない。事実審においては、必要によりこの点を釈明し、また判決主文において、すくなくとも判決理由の記載において、その趣旨を明示することが望ましい。
 よつて、上告理由は結局理由あるに帰し、原判決を破棄し第一審判決を取消し、本件を第一審裁判所に差し戻すべきものと考える。
 裁判官柏原語六は、裁判官入江俊郎の右反対意見に同調する。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)
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